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神戸地方裁判所 昭和49年(行ウ)21号 判決

神戸市灘区日尾町二丁目二番二〇号

原告

志水三二

右訴訟代理人弁護士

川上忠徳

川上博子

神戸市灘区泉通二丁目一番地

被告

灘税務署長

谷照夫

右指定代理人検事

片岡安夫

同法務事務官

河本正

同国税実査官

尾形一彌

同国税訟務官

安原健夫

同訟務専門官

門田要輔

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して昭和四八年三月一二日付でなした昭和四四年度分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は昭和四四年度分所得税の確定申告に、総所得金額を金五〇五万二三六〇円の損失(不動産所得の損失金一三二万三九六五円、譲渡所得の損失金三七二万八三九五円の合計)、納付すべき税額を〇円と申告したところ、被告は昭和四八年三月一二日付で総所得金額を金一二六八万一一九八円(不動産所得金七九五万一六三二円、給与所得金二〇万八〇〇〇円、譲渡所得金、四五二万一五六六円の合計)、納付すべき税額を金四五〇万二一〇〇円とする更正処分をなし、かつ、過少申告加算税の額を金二二万五一〇〇円とする賦課決定処分をなした。

2  原告はこれに対し、昭和四八年五月一〇日付で異議申立てをしたところ、被告は、右申立てについて、同年八月一〇日付で別紙総所得金額等明細表記載のとおり、総所得金額を金七七五万五七九三円、納付すべき税額を金二五七万七五〇〇円、過少申告加算税の額を金一二万八八〇〇円とする旨の決定をなした。

3  原告は右決定に対し、昭和四八年九月一〇日審査請求をなしたところ、国税不服審判所長は昭和四九年三月二二日付でこれを棄却する旨の裁決をなし、その裁決書謄本はそのころ原告に送達された。

4  被告は、芦屋市奥山一二番ないし一五番、一六番一の各土地(以下「本件各土地」という。)の賃料を原告の不動産所得として課税しているが、本件各土地は株式会社長谷ビル(以下「長谷ビル」という。)からの借入金六五〇〇万円に対する代物弁済として昭和四二年二月二四日原告より長谷ビルに対して譲渡し、同月二五日所有権移転登記を経由済みのものであるから、本件各土地の賃料収入はすべて長谷ビルの所得となるもので、原告の所得となるいわれはない。

仮に、右賃料収入が法的には原告の所得となるにしても、右賃料収入は、本件各土地の維持のため前記借入金に対する金利の支払にそのすべてを充てているので、これは不動産収入にかかる必要経費と認められるべきである。

5  本件各土地のうち、一四番の宅地五六五、七五平方メートルは訴外志水芳恵(以下「芳恵」という。)の所有であったのであるから、一四番の土地の賃料は芳恵の所得となるにもかかわらず、被告はこれを含めて本件各土地の賃料全部を原告の所得として課税している。

6  よって、原告の納付すべき税額は〇円となるのであるから、被告が原告に対して昭和四八年三月一二日付でなした昭和四四年度分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因事実1ないし3は認める。

2  同4の事実のうち、被告が本件各土地の賃料を原告の不動産所得として課税したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同5の事実は否認する。

三  被告の主張

1  原告は次の経緯により昭和四四年中において原告所有の本件各土地を長谷ビルに使用させ、長谷ビルからの借入金に対する利息の支払に本件各土地の賃料を充当することにより利息相当額である金七八四万円の収益を得た。

(一) 原告は昭和四二年二月二四日現在、長谷ビルに対して金二三〇〇万円の債務を負っていたほか、長谷ビルが原告に対し、原告の長谷ビル以外の者に対する債務を代位弁済することを約したので、右代位弁済により原告が長谷ビルに対して負うべき債務を含めれば、結局、長谷ビルに対し総額六五〇〇万円の支払債務を負うことになる見込であった。

(二) そこで、原告と長谷ビルとは右同日原告所有の本件各土地につき、事実は原告に所有権を留保し、登記簿上においてのみ長谷ビルに所有名義を移転する旨の契約を締結し、これに基づいてそのころ原告から長谷ビルに対する所有権移転登記を経由した。

(三) 原告は同年三月一五日長谷ビルとの間で、原告を借主、長谷ビルを貸主として、前記金六五〇〇万円を消費貸借の目的となし、右元本は原告所有の本件各土地を売却したときにその売却代金をもって返還し、利息は日歩四銭として元金完済のときに一括して支払う旨の契約(以下「本件準消費貸借契約」という。)を締結したが、同時に、本件各土地を売却するまでの間、長谷ビルにおいて訴外日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)又は訴外株式会社間組(以下「間組」という。)に対し、本件各土地を賃貸することができ、その場合には長谷ビルがその賃貸料を取得して右六五〇〇万円の利息の支払に充当し、その過不足は本件各土地の売却代金によって精算する旨の契約(以下「本件利息充当契約」という。)を締結した。

(四) 長谷ビルは同月三一日本件利息充当契約に基づき、国鉄に対し本件各土地のうち、一五番の土地の一部(約一七八三平方メートル)を、間組に対しその余の本件各土地部分(約二五〇七平方メートル)を期間はいずれも昭和四二年四月一日から昭和四五年三月三一日までとして各賃貸した。

(五) 長谷ビルは本件利息充当契約に基づき、昭和四四年中において、国鉄から金一六〇万円、間組から金六二四万円を各賃貸料として取得したうえ、これらをいずれも本件準消費貸借契約により原告が支払うべき利息の支払に充当した。

2  芦屋市奥山一四番の土地については、登記簿上は昭和三九年一二月九日付で原告の妻芳恵の所有名義となっているが、その経緯は必ずしも明確でなく、かつ右土地はしばしば原告本人の意思によって処理されてきたのであるから、芳恵の所有名義は実体上の権利のないものである。

また、右土地の所有権の帰属がいずれであろうとも、右土地より発生した国鉄及び間組に対する賃貸料はすべて原告本人の借入金の利息に充当されているのであるから、右賃貸料は実質的に原告本人が収受し処分したものとみるべきである。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張1、2の各事実のうち、1の(一)及び(四)の各事実は認めるが、その余の事実はすべて争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証、第二号証、第三号証の一ないし八、第四号証の一ないし七、第五号証の一、二、第六号証の一ないし一四、第七号証ないし第九号証

2  原告本人

3  乙第一号証のうち、一四番と書込まれた部分並びに第七号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立はいずれも認める(なお、乙第一号証については、右書込部分を除くその余の部分につき原本の存在も認める。)。

二  被告

1  乙第一号証ないし第一〇号証

2  証人横山勉

3  甲号各証の成立はすべて認める(なお、甲第五号証の一、二につき原本の存在も認める。)。

理由

一  請求原因事実1ないし3並びに同4のうち、被告が本件各土地の賃料を原告の不動産所得として課税したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、以下被告が原告に対してなした昭和四四年度分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という。)の適法性について検討する。

1  当事者間に争いのない事実について

原告の昭和四四年度における別紙総所得金額等明細表の各金額は、同表の二、1の総収入金額及び同二、1.(一)、(二)の本件各土地からの賃料収入額を除いて、いずれも当事者間に争いがない。

2  本件各土地からの賃料収入の帰属について

成立に争いがない甲第三号証の一ないし八、同第四号証の一ないし七、原本の存在及びその成立に争いがない同第五号証の一、二、成立に争いがない同第六号証の一、同第八号証、乙第四ないし第六号証、前記甲第五号証の二の記載と証人横山勉の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証、証人横山勉の証言、原告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和四一年一一月九日長谷ビルから金二三〇〇万円を弁済期昭和四二年五月六日の約定で借り受けたが、右弁済期前の昭和四二年二月二四日長谷ビルとの間で、原告が同日現在において長谷ビル以外の者に対して負担している債務を長谷ビルに代位弁済してもらうことになっていたところ、右代位弁済により負担する求償債務額と、前記借入債務額を合わせると、金六五〇〇万円が長谷ビルに対する債務合計額となることが見込まれたため、これを担保する目的で本件各土地及び地上の家屋二棟につき同月二五日付で売買名義で原告から(但し、本件各土地のうち一四番の土地については名義人が芳恵となっていたので、芳恵から)長谷ビルに対して所有権移転登記をするが、これはあくまで担保目的のものであって、真実の所有権は原告に留保する旨の契約を締結し、翌二五日所有権移転登記を経由した。

(二)  同年三月一五日、原告は、当初の見込どおり長谷ビルに対して金六五〇〇万円の債務を負担することとなったため、長谷ビルとの間で元本を金六五〇〇万円とし、利息は日歩四銭の割合で元本支払時に一括して支払うが、元利の支払時期はあらかじめこれを定めず、本件各土地を第三者に売却したときにその売却代金をもって一括して支払うことを内容とする本件準消費貸借契約を締結し、その旨の公正証書(甲第三号証の三)を作成した。

(三)  また、原告は、右契約の締結と同時に長谷ビルとの間で、「不動産の売却処分に関する契約証書」(甲第三号証の一)を作成し、一応所有名義人は長谷ビルとなっているが真実の所有権は原告に留保されている本件各土地を第三者に売却し、その売却代金から、前記貸金元金六五〇〇万円及びこれに対する日歩四銭の割合による利息並びに本件各土地の公租公課その他一切の費用を控除した残金を、両名が折半して取得する、但し、右売却処分前に本件各土地を山陽新幹線建設工事のために国鉄又は間組に賃貸する場合は、その賃料を右利息に充当するため長谷ビルがこれを取得し、本件各土地の売却処分後にその精算を行うこと等を約した。

(四)  長谷ビルは、同年三月三一日右契約に基づき、いずれも長谷ビルを貸主とし、借主国鉄との間では本件各土地のうち一五番の一部(面積約一七八三平方メートル)をその目的として賃料年一六〇万円、期間を昭和四二年四月一日から昭和四五年三月三一日までとする、また、借主間組との間では本件各土地のうち右土地を除いたその余の部分(面積約二五〇七平方メートル)をその目的として賃料月五二万円(但し、昭和四二年四月から同年一二月分までは月三〇万)、期間を昭和四二年四月一日から昭和四五年一二月三一日までとする各賃貸借契約を締結し、昭和四四年中において国鉄から金一六〇万円、間組から金六二四万円をいずれも右各賃貸借契約に基づく賃料として収受し、これを本件利息充当契約に基づいて原告から支払を受けるべき前記利息の支払に充当した。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用できず、また成立に争いのない甲第三号証の四及び同号証の八には国鉄等からの本件各土地の賃料収入を長谷ビルの所得とするようにもとれる記載部分があるが、同号証の作成日付に照らすと、右記載部分はいまだ右認定を左右するに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、原告は、本件各土地のうち、一四番の宅地五六五、七五平方メートルは原告の所有でなく、芳恵の所有であると主張するので、この点につき検討するに、なるほど前記甲第四号証の三によれば、登記簿上、一四番の土地はもと原告の所有であったが、昭和三九年一二月九日芳恵に対し昭和三六年五月二〇日競落を登記原因として所有権移転登記が経由されていることが認められ、成立に争いのない甲第七号証(別件訴訟における芳恵の証人尋問調書)及び原告本人尋問の結果の中には前記登記原因記載のとおり芳恵が競落したとの事実に副う部分もある。しかし一方、右甲第七号証中の芳恵の供述によれば、芳恵は昭和三四年六月一二日原告と結婚して以来、昭和三九年まで収入を伴う職業に就いたことがないことが認められ、また、前記甲第三号証の一、三によれば、前記認定の原告と長谷ビルの間で、昭和四二年三月一五日本件準消費貸借契約及び「不動産の売却処分に関する契約」を締結するに際しては、一四番の土地も原告の所有とされていることが認められること、さらに、前記認定のように原告の債務のため、芳恵名義の一四番の土地も、原告名義の他の土地とともに一括して担保目的をもって長谷ビルの所有名義に移されていること、成立に争いのない乙第九号証によれば、原告は昭和四七年一月七日長谷ビルを債務者として不動産仮処分の申請をしているが、その申請書においても一四番の土地が原告の所有であると主張していることが認められること、本件訴訟は昭和四九年六月二五日に提起されたことが記録上明らかなところ、一四番の土地が芳恵の所有である旨の主張は昭和五〇年一〇月三日の第七回口答弁論において原告から初めてなされたこと、以上の各事実に、芳恵が原告の妻であることを考慮するときは、一四番の土地が芳恵の所有であったとする前記各証拠は採用することができず、かえって、右土地はその所有名義にかかわらず、原告の所有であったと認めるのが相当である。

前記(一)ないし(四)の認定事実によれば、本件各土地は、昭和四二年二月二五日原告から長谷ビルに対して所有権移転登記が経由されているが、これはあくまで本件準消費貸借契約により原告が長谷ビルに対して負担した元本六五〇〇万円及びその利息の支払債務を担保するためであって、真実の所有権は原告に留保されていたものと認められ、原告は、長谷ビルとの特約により、右元利金の支払のため本件各土地を第三者に売却処分するまでは本件各土地の所有権を失うことがなかったものというべきである。

したがって、長谷ビルが本件各土地の売却処分前である昭和四四年度において、原告との特約に基づいて本件各土地を国鉄及び間組へ賃貸することにより、国鉄から金一六〇万円、間組から金六二四万円の各賃料収入を得、原告との本件利息充当契約に基づいてこれらを原告から支払を受けるべき利息に充当したことにより、その時点において、原告は右利息充当額相当の経済的利益を受けたものというべく、結局、本件各土地からの右賃料収入は、原告がその所有の本件各土地を長谷ビルに使用させたことにより取得した収入金であって、所得税法二六条に定める不動産所得にかかる収入金に該当するものといわなければならない。

3  原告の長谷ビルに対する支払利息が不動産所得にかかる必要経費に該当するかどうかについて

原告は、長谷ビルに対する支払利息に充てられた本件各土地の賃料収入はすべて本件各土地の維持のために費されたものであるから、不動産所得にかかる必要経費と認められるべきである旨主張するが、所得税法上不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、当該総収入金額を得るために直接に要した額及び一般管理費等、収入金額に対応する経費に限定して解すべきところ、本件各土地の賃料収入は、その使用権を長谷ビルに対して与えたことの対価そのもの(不動産収入そのもの)とみるべきであって、不動産収入に対応する必要経費とみるべきものではないから、原告のこの点の主張は採用できない。

以上により、原告は昭和四四年度中において別紙総所得金額明細表記載の総所得金額を得ていたことが認められる。

したがって、本件更正処分等は適法になされたものというべきである。

三  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西内辰樹 裁判官 田中俊夫 裁判官 法常格)

総所得金額等明細表

一 総所得金額 金七七五万五七九三円

1 不動産所得金額 金六四八万六三四五円

2 給与所得金額 金二〇万八〇〇〇円

3 譲渡所得金額 金一〇六万一四四八円

二 不動産所得金額の計算

1 総収入金額 金八一三万八七二〇円

右は左の各土地建物の賃料収入の合計額である。

(一) 芦屋市奥山一二番、一三番、一四番、一五番(但し、(二)の日本国有鉄道に対する賃貸部分は除く。)、一六番一の宅地(二五〇七平方メートル)

借主 株式会社間組 金六二四万円

(二) 同市奥山一五番の宅地の一部(一七八三平方メートル)

借主 日本国有鉄道 金一六〇万円

(三) 神戸市灘区稗原町三丁目一四番の宅地

借主 川田某 金三六〇〇円

(四) 同市灘区泉通一丁目一六〇番地の建物

借主 小林哲夫 金一万円

(五) 同市東灘区本庄町西青木町の建物

借主 氏名不詳 金二万一六〇〇円

(六) 大阪市東住吉区田辺東之町八丁目二七番地の建物

借主 中信一ら 金二六万三五二〇円

2 必要経費 金一六五万二三七五円

(一) 減価償却費等 金一六〇万一八八五円

(二) 固定資産税額 金五万〇四九〇円

三 給与所得金額の計算

1 収入金額 金三六万円

2 給与所得控除額 金一五万二〇〇〇円

四 譲渡所得金額の計算

別表記載のとおり

別表

〈省略〉

△は損失を表わす。

(算式)

譲渡所得=〔{(長期譲渡所得)+(短期譲渡所得)}-(譲渡所得の特別控除額)〕×1/2

1,061,448=〔{(3,764,396)+(△1,341,500)}-(300,000)〕×1/2

単位は円

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